SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年の国連サミットで採択された、地球に暮らすすべての人が平和と豊かさを享受できるよう2030年までに達成すべき17の国際目標のことです。日本でも、政府だけでなく多くの企業や市民団体が、この取り組みに参加しています。
甲南大学は、この国際的な取り組みに賛同し、新たなプロジェクトをスタートさせました。神戸市、堺市、和歌山市、徳島市の4つの市と連携して、甲南生が地元の高校生や自治体とともに持続可能な社会を実現するための課題解決に挑戦する。それが「関西湾岸SDGsチャレンジ」です。
内間法学部のゼミでは街づくり、とくに甲南大学と岡本商店街のつながりを研究しています。このプロジェクトは大学のHPで知りました。それまでSDGsについて何も知りませんでしたが、すごく共感できる目標だったので参加しました。
大館経済学部のゼミでは、さまざまなテーマを研究しています。たとえば経済学のマッチング理論を応用した献血制度の改善とか。わたしもSDGsは知りませんでしたが、違う学部の人や高校生と協力できるのが面白そうで応募しました。
藤岡文学部の歴史文化学科で、平家の外交関係や院制政治について研究しています。プロジェクトに参加したのは、将来の進路について考えているときにゼミの先生から「視野が広がるよ」とすすめられたのがきっかけですね。
内間SDGsの内容を学んでから、取り組む地域を選びました。わたしが担当した徳島市では、若者の流出や人口減少という大きな課題があって、それらを解決するためにはどうすれば良いのか、自治体の方や地元の高校生の意見も聞きながら、具体策を考えていきました。
大館わたしは和歌山市を担当しました。和歌山市でも徳島市と同じ課題がありました。人口が減って高齢化が進んでいるので、もっと住みやすい街にしたいと。だれにとって、どういう街が住みやすいのか。そういうところから議論を開始しました。
藤岡わたしは研究している平家と縁が深いということから神戸市を選びました。わたしたちのチームは国際都市・神戸らしく定住外国人への支援をテーマとして設定しました。おなじ定住外国人でも、年齢や日本語能力などによって取り組み方が変わります。キーワードをホワイトボードに書き出し、だれに、何を取材しにいくのか絞り込むことからスタートしました。
大館現地を訪問しないとわからないことが多いですね。和歌山市では地域バスが運用されていますが、実際には待ち時間の長さからあまり利用されていなかったり、バス停に高齢者用のベンチがないなどの発見がありました。
内間外から見たイメージと住んでいる人の実感には、すごくギャップがありますね。わたしたちは徳島市の伝統産業である藍に注目したんですが、量産性や採算性など、気づかなかった課題がたくさんありました。藍が食用になることを地元の人に知られていないという気付きもありましたね。
藤岡神戸市ではカナディアンアカデミーを訪問しました。校内に茶室があって子どもたちが茶道を学んでいるんですよ。交流や理解のために、わたしたちの知らない努力がおこなわれていることに驚きました。
藤岡こうしたプロジェクトへの参加は初めてだったので、自分にできることを常に考えました。文学部なので記録や提案書の文章づくりを中心的にやりましたね。あとは他人の意見を尊重しながら、自分の考えもしっかり主張すること。外国人との交流をもっと増やしたいという意見に、それなら音楽フェスを開催したらどうかと提案したところ、賛同してもらうことができました。そうした全員の意見や個性を生かすチームワークを学びました。
内間ゼミの研究でフィールドワークは慣れていましたが、このプロジェクトでは実現可能性を探ることが重要なので難しかったですね。解決策を実行するにしても、そのために必要な費用やマンパワーなどもしっかり考慮しないといけない。そのおかげで、現実味をおびた具体策をつくることができたと思います。徳島市役所の方からも、とても前向きなご意見をいただくことができました。
大館わたしたちは実現可能性の高いものから低いものまで段階的に提案しました。SDGsの目標は2030年ですが、さらにその先も見据えて。例えばバス停に待合室をつくるだけでなく、電動カートのシェアを提案に盛り込みました。もちろん経済学部ですから、採算をとるための損益分岐はしっかり計算しました。
大館地元の高校生のリアルな声がなければ、この提案はできなかったかもしれませんね。LINEでどんどんアイデアを送ってきてくれたり、積極的に協力してくれました。
内間大学生に対して意見が言いにくそうな高校生がいても、LINEなら気軽に発言してくれますね。高校生が発言しやすい環境を作れるよう心掛けました。
藤岡大学生とか高校生とか関係なく、チームの全員が能力を発揮してくれたと思います。カナディアンアカデミーの校長先生が外国人だったのですが、高校生に英語の得意な人がいて、恥ずかしながらすっかりお世話になりました。
大館地域の問題を解決するといっても、自治体の方や住民の方は、いつもそのことを考えています。その方たちに、わたしたちが提案することはとても不安でした。だからこそ、地元の方たちが心から行動したくなるような提案を目指しました。わたしは卒業後はテレビ局のADとして働く予定ですが、人々の心を動かすコンテンツ制作をしていくうえで貴重な経験になったと思います。
藤岡大学で歴史を学んで将来なにかの役に立つのか。このプロジェクトに参加するまでそんな思いがありました。同じ悩みをもった歴史好きの人は多いと思います。膨大な資料を理解して正解への道筋を見つけだしていく歴史研究の方法は、地域課題の解決にも共通していました。自分で調査して、考えて、発表したこの経験から、将来は新聞社や学芸員などの仕事に就きたいと思うようになりました。
内間わたしは将来食品関係の仕事に就きたいと考えています。このプロジェクトを通して生産者と消費者、それぞれの立場が違えば意識も変わるということを実感できました。いつか新商品を開発したり、販促したりするときには、今回の経験が役立つと思います。
今回の提案に対する自己採点は?
この「関西湾岸SDGsチャレンジ」は、甲南大学が包括連携協定を結んでいる地域が抱える課題を、国際的なトレンドに沿って学生たちが解決しようという試みです。だれもが違う意見をもち、そのどれもが正しい現実社会で「だれ一人として置き去りにしない」というSDGsの目標は、大学生にとっても高いハードルです。最初は苦労していたチームでも、いちど歯車がかみ合いはじめると、それぞれの個性が輝きはじめて急速にすばらしいプランが完成していきます。今回わたしたちは、そんな“ミラクル”を目撃することができました。大学というのは、自分の好きな、得意な、専門分野を学ぶというワクワクするような世界です。それにプラスして甲南大学では、身につけた専門能力を実社会で役立てることのできる応用能力も磨きます。「関西湾岸SDGsチャレンジ」は、まさにそうした甲南大学ならではの挑戦なのです。