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    初めてのVR美術館見学会―社会学科「メディア文化論」

    2023年1月26日(木) 文学部新着情報 お知らせの一覧

    美術作家の植村さんとWESON MUSEUM
    「メディア文化論」は、社会学科の専門科目であり、文学部のリンク・プログラムや地域連携講座科目にも含まれています。授業では、国内外の地域メディアと連携しながら、コミュニケーションツールとしてのメディアの意味を考えます。2022年度の授業では、美術作家(油絵、アクリル画)の植村友哉さんをお招きし、メディア文化論の担当教員である西川麦子、松本章伸、辻野理花との座談会*や植村さんが主催するWESON MUSEUMの見学会を実施しました。この美術館は、実は、VR(バーチャル・リアリティ、仮想現実)空間に、ご自身の絵やパラオ共和国の作家の絵が展示されています。



    VR美術館で持続的な文化交流!
    植村さんは、大学を卒業して就職しましたが、子どもの頃から大好きだった絵を描きたいという想いを諦められずに退職。友人を訪ねてパラオ共和国へ訪問したことをきっかけに、本格的に作家への道へ進む決意をしました。現在は大阪市内のアトリエで制作していますが、パラオで展示会をすることは容易ではありません。そこで、仮想現実の美術館を作り、パラオと日本をつないで文化交流ができないかと考え始めました。VRエジニアと出会い、植村さんは2022年に自身の名前をもじったWESON MUSEUMを開設し、毎週土曜日に1時間の美術館見学会を開催しています。世界中からの参加者数が、2022年には1万人を超えました。



    バーチャル・リアリティをリアルに共有する
    「アート」と「VR」を組み合わせて国際交流という発想は、受講生にとっても教員にとっても新鮮でした。メディア文化論の授業のアクティブラーニングとして、WESON MUSEUM**見学会を実施したいと考えました。ところが、社会学科が所有するVRヘッドセットは1台しかなく、同時に複数の人がV R空間に入り美術館を見学することができません。そこで、西川が参加するラジオ番組Harukana Showの制作スタッフの小牧龍太さん(立教大学特任准教授、デジタルヒューマニティーズ、図書館情報学)に協力をお願いしました。授業ではまず、植村さん(大阪)と小牧さん(東京)はZOOMで担当教員(兵庫)と受講生(関西各地)とつながりました。その状態で、植村さんはVRヘッドセットをつけ、ヘッドセット用のVRアプリからWESON MUSEUMに入り、アバターとなって見学会の参加者(アバター)に美術館を案内します。小牧さんはVRヘッドセットを使わず、Windows PC版のソフトウェアでWESON MUSEUMに入り見学会に参加し、VR美術館の様子をPC画面に映し出しZOOMで画面共有します。また、次の図のように小牧さんが図書館員アバターとなって、見学会の様子をZOOM参加者にレポートしました。



    コミュニケーションの場としての仮想空間
    メディア文化論の受講生と教員は自分のパソコンやスマホでZOOMから入り、共有された画面からVR美術館見学会を体験しました。また、社会学科共同研究室では、辻野さんがZOOM画面をスクリーンに投影し関心がある教職員と授業内容を共有しました。社会学科の中里ゼミも特別参加し、交代しながら一人がVRヘッドセットを装着し、アバターとなり実際にWESON MUSEUMに入りました。学生たちにとっても初めてのVR体験です。アバターがなかなか立ち上がることができなかったり、思った方向に進めなかったりします。するとVR美術館見学会に国内外から参加していた他のベテランアバターたちが近づいて、初心者アバターに操作のコツを教え励まし、そんな様子をアバターが写真撮影していました。ゴーグルをつけて仮想空間に直接に入らなくても、ZOOM画面を見ているだけでも驚きの連続でした。



    アバターの一人称視点という驚き、臨場感
    このVR美術館の何よりの面白さは、絵を見ながら参加者どうしや作家の植村さんと交流できることです。植村さんがパラオで画家となる決意をしたエピソードを聞きながらその時の情景を描いた絵を見たり、絵をくぐり抜けてみんなで別の部屋へ行ったり、展示されている絵に見学者が描き足すなど、参加することの面白さが仕掛けられています。その一方で、一人で自分の好きな絵をずっと見ていることもできます。参加学生からは、さまざまな感想が寄せられました。「臨場感が凄くて、実際にアバターとなって行動しているかのよう」「一番驚いたことは、一人称視点」「参加者の年齢や性別、国籍など気にならず絵に集中することができる」「芸術に関心がなかったが、解説を聞いて個展にも行ってみたくなった」「マンタが頭上を飛び、絵に戻っていく様子は見ていてわくわくしました」。VR美術館見学会をとおして、バーチャル・リアリティにおけるグローバルな文化交流の可能性を感じることができました。



    *植村友哉さんとの座談会は、Harukana Show Podcastにも掲載されています。 No.585, June 10, 2022, 「VR美術館でリアルタイムに国際文化交流」with Tomoya Uemura
    **WESON MUSEUMは、VRChatというVRサービスの中に作られた「ワールド」(仮想空間)です。VRChatの世界に参加するには、同名のVRChatというアプリを使います。VRChatアプリは各種VRヘッドセット版とWindows PC版があり、VRヘッドセット版は各VRシステム向けのアプリストアなど、Windows版はSteamというゲーム配信プラットフォームを通じて無償配布されています。

    社会学科教授 西川麦子