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    台湾研修報告・その3

    2018年9月27日(木) 法学部新着情報
    えん罪救済ボランティアの台湾研修報告、その3です!法学部2回生の中村 槻さんの記事です。
    [法学部教授・笹倉香奈]
     
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    台湾研修の二日目についてレポートします。この日は國立台湾大学法学院で「自由の中へ――冤罪とアジアの冤罪救済活動に関する年次総会」の第一日目が行われました。
    大会は、台湾の検事総長である 江惠民氏による開幕の言葉で始まりました。
    「司法制度が冤罪を生み出さないとは言い切れない」とおっしゃったことが印象に残りました。「日本でもこのようなことが起こるのだろうか」と思いました。
    桜井昌司さん(1967年に起きた日本の布川事件の冤罪被害者)の講演によれば、日本の検察庁は布川事件の冤罪被害者である桜井さんや杉山さんについて「自白という難しい問題で裁判所の判断に違いがあっただけのことだ」と未だに主張し、自分達の捜査に対して絶対的な自信を持っているようです。江氏のように、検察官が素直に自分たちも誤るという可能性を認める姿勢には、考えさせられました。
     そして、江氏のスピーチの後に今回のメインスピーチの一つである桜井さんのスピーチが行われました。私は2回生からえん罪救済学生ボランティアとして関わっていますが、布川事件について桜井さんご本人からお話をお聞きするのは初めてで、学びある時間でした。
    桜井さんご自身の29年間の獄中生活をどう捉えていらっしゃるかということや、桜井さんの虚偽自白がどのようになされたのかについて、ご本人の口から語られる内容は授業などで学ぶ以上に勉強になりました。
    逮捕から5日目にウソ発見器にかけられたり、時計の無い部屋での取り調べによって時間感覚が失われたりして徐々に精神的に追い込まれる過程はとても恐ろしかったです。やってもいない罪を自白してしまうほどの取り調べが実際に行われていることを知りました。
    また、別の事件のお話では、そうして作り上げられた自白内容が現場証拠と矛盾していると分かると、訴因変更によって再び有罪とされてしまうこともあることも知りました。授業で学んだ知識と照らし合わせながら考える時間は貴重なものでした。
    中でも、取り調べの可視化について言及されている場面が印象に残りました。取り調べの全面可視化を行う台湾と比べて、部分的可視化を行う日本は不透明であるという指摘は興味深かったです。他の冤罪事件についても言及されており、まだまだ救済されるべき人々がいらっしゃることを知りました。
    桜井さんのスピーチのあとに台湾の冤罪被害者の鄭性澤さんのスピーチが行われました。鄭さんは、ある騒ぎに駆けつけた警察官を殺害した罪によって2002年に逮捕されました。明確な証拠がない状況下で第一審から死刑判決が下されるなど、ご本人やご家族の苦しみは想像を絶するものでした。
    しかしながら桜井さんと鄭さんの内容を比較して見ると、ふたりとも共通して冤罪による獄中生活を「不運ではあったが不幸ではなかった」と前向きに捉えていらっしゃいました。冤罪が晴れたのちにそれぞれご自身の特技である歌や料理を活かし、夢を持って生きていらっしゃる姿が印象的でした。桜井さんには午後の部の終盤でご自身が獄中生活の中で創作した自由の歌を歌っていただき、鄭さんはご自身のスピーチの際にスライド上で料理や作品の絵の写真を投映し、明るく紹介していました。その笑顔の裏に15年間の苦しみも感じました。この下に掲載している写真はその作品の一つです。
    研修二日目の午前には日本と台湾の冤罪被害者の方々の当時と現在の心情をご本人からお聞きし、改めてこの救済活動の意味について考えるきっかけとなりました。また、冤罪被害者の方々が冤罪救済支援を行う弁護士の方を始めとした先生方や私たち学生ボランティアに対して感謝の意を示されていました。この活動が冤罪被害者の方々の支援となっていることを実感でき、今後の活動に対する士気に繋がりました。