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    甲南映画祭 ’25 学生スタッフによる作品紹介・教員インタビュー(6)

    2025年11月18日(火) 文学部新着情報 お知らせの一覧

    学生スタッフが甲南映画祭の見どころを紹介します。今回は、12月4日(木)に上映するジョナサン・グレイザー 監督の『関心領域』(2023年)について、文学部歴史文化学科の松田颯汰さんが、田野大輔教授にインタビューをしました。


    『関心領域』 配給:ハピネットファントム・スタジオ


    Q.なぜこの映画を選ばれましたか?
    A.「災いと向き合う」というこの映画祭のテーマの「災い」とホロコーストは同質ではないかもしれないですが、近い部分もあります。ナチスによるユダヤ人の大量虐殺を指す言葉として、ホロコースト以外にも「shoah【ショアー】」という言葉が主にユダヤ人の間で使われています。ホロコーストの語源は「火によって焼き尽くされた生贄」という意味ですが、ショアーの語源は「災い、絶滅」という意味で、「災い」という言葉と繋がりがあると言えます。
     またこの映画はアウシュヴィッツ収容所の横で暮らす所長ルドルフ・ヘスとその一家を描いた作品で、加害者側の内面に入り込む鋭い視線を持った作品です。それは単に歴史的な出来事にとどまらず、今も続いている「災い」に対して現代を生きる私達が「向き合う」ことができているのか、ということを描いた映画であると考えこの作品を選びました。

    Q.大学生にみてもらいたいポイントはどこですか?
    A.この映画は登場する人々の言葉や立場、考え方など様々な点において、歴史研究者の立場から見て違和感が無いほど、細かいシーンまで作り込まれています。そういった部分も見どころなので、もし時間があれば新書などで基本的な知識を学んで観てみて欲しいと思います。
     また私が講義で学生にこの映画を観せるときは、ハンナ・アーレントの「悪の凡庸さ」という言葉を踏まえて観てほしいと言っています。しかしこの言葉は世間一般で、簡単な内容として単純化され使われているのです。この映画はヘス所長が組織の歯車ではないということも、家族や周りの人々も虐殺に加担している認識があることも描いています。是非とも決まり文句として使われている意味ではなく、深い意味に目を向けて観てもらいたいと思います。

    Q.注目してほしいシーンはどこですか?
    A.1つを選ぶとすると、奥さんのヘートヴィヒが自宅の庭園を自身の母親に紹介するシーンに注目して観てほしいです。庭は囚人の強制労働で作られたもので、壁の向こうはアウシュヴィッツ収容所です。彼女はその壁を花で覆い隠そうとしており、ヘス一家の意識の在り様を鮮明に映し出していると言えます。また沢山の美しい花や野菜を植えて愛でている一方、雑草を熱心に抜いている姿はナチスの人種イデオロギーの表れであると解釈できます。

    インタビュアーのコメント
    取材に際して私も『関心領域』を視聴したのですが、歴史を描いた映画としても、人の在り方を描いた鏡のような映画としてもとても良い映画でした。また今回のインタビューの中で、私自身も理解しきれなかった部分について知ることが多数ありました。一度観たことがあるという方も、ぜひ田野先生の解説を聞きに来ていただきたいと思います。



    『関心領域』の上映時間、および映画祭全体のスケジュールは、
    甲南映画祭公式ウェブサイト(https://www.konan-u.ac.jp/konan-film-festival/)をご覧ください。

    (文学部教授 中町信孝)