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    2022年12月14日に、文学部英語英米文学科井野瀬ゼミと経済学部永廣ゼミとの合同ゼミが開催されました。

    2023年2月21日(火) 文学部新着情報 お知らせの一覧

    合同ゼミで出会う「わたし」
    英語英米文学科教授  井野瀬久美惠



     私のゼミにはイギリスの歴史と文化に関心を寄せる学生たちが集まっている。「イギリス」といっても、ヨーロッパの北西に位置する島国というだけではなく、かつてこの島国が7つの海、5つの大陸を支配し、大英帝国と呼ばれていた地域――アジアやアフリカ、カリブ海域や大西洋上の旧植民地を含むから、我がゼミの研究対象は地域だけ見てもかなり広い。加えて、自分のバックグラウンドと重ねて、ブラジルや中国、タイなどを研究対象にするゼミ生もいる。よって、井野瀬ゼミは、イギリスと(多少なりとも)関わる人や文化の交流、移動を多方向から問い直す議論にあふれている。
     そんな我がゼミの学生たちが最も緊張する時間が、年に一度、毎年12月半ばに開催される経済学部・永廣ゼミとの合同ゼミである。
     始まりは10年余り前、たまたま同時期に学部長をしていた私と永廣先生が、「甲南大学は総合大学としてのメリットを生かせているだろうか?」とい疑問を共有したことにある。普段は学部や学科を学びの単位としている学生たちが、互いの学びの違いを意識しながら自由闊達に意見を交わし、自分にあるもの/ないものを見つめ直し、人としての幅や視野を広げる可能性を持つ場所。そんな場所があればという思いを込めて、「文学部×経済学部」の合同ゼミは2012年に始まった。当時学部を超えるゼミは初めての試みであったと思う。
     今年度、合同ゼミは11回目を迎えた。コロナ禍が収まりつつあったことで、対面で行われた合同ゼミは大いに盛り上がった。今年度の永廣ゼミのテーマは「コロナやサブスクの流行で映画の興行収入はどうなっているのか」と「人は愛をとるか?お金をとるか?」の2本立てで、いずれも3年次の報告であった。かたや井野瀬ゼミからは、3年次の「香港の若者はどこへ向かうのか?」と、4年次の卒論中間報告「E-sportsによる障がい者の新たな可能性」の2本である。例年同様、前期終了時に報告者候補(グループにせよ個人にせよ)を決定し、後期授業のなかで報告の中身をゼミ全員で掘り下げた。
     25分の報告準備も大変だが、それ以上に学生たちが緊張するのは、報告後20分間の意見交換,質疑応答である。それぞれのゼミの「日常」もここで露になる。学部学科それぞれの学びのなかで、(おそらくは)無意識のうちに身につけてきた学問の作法や発想、考え方の違い、言うなれば「学問を取り巻く空気のようなもの」が見えてくるのも、質疑応答においてである。
     たとえば、貧困や福祉の問題について、経済学部の学生は制度設計を正面から扱おうとするが、井野瀬ゼミの学生が問いかけるのは,制度設計の背景となる貧困の理由やその形であり、福祉という発想がどうやって生まれたか、誰がどうやって発展させてきたか、である。だから、今年度の経済学部のテーマについても、井野瀬ゼミの学生は「愛かお金か」という二項対立そのものを問題視して、矢継ぎ早に質問を浴びせかけた。「愛だってお金だってほしい!」「そもそも、この二つは対立しますか?」「問題の設定自体が変じゃないですか?」――おお、井野瀬ゼミ、けっこうやるやん!



     実は、井野瀬ゼミでは、毎年、経済学部のテーマ2つを入手すると、ゼミの授業以外でも勉強会を開き、そのテーマではどんな議論があり得るか、みんなで考えることにしている。その成果が合同ゼミ当日に現れた、ということだろう。もちろん、井野瀬ゼミの報告にも「穴」や「脇アマ」が指摘されるのだが、具体的な話はまた別の機会にしよう。
     合同ゼミを終えた翌週は、毎年決まって慰労会と反省会が行われる。学生たちが以前より少しだけ、どこか自信をつけたように見えるのは、気のせいではないだろう。それはおそらく、「自分が何を学んできたか」が多少客観的に見え、ゆえに、「自分はいったい何者か」が少しばかり見やすくなったからではないだろうか。
     合同ゼミとは「わたし」と出会い、「わたし」を知る場――学生たちを見ながら、ふとそんなことを思った。