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オンラインを活用した「フィールドワーク」―文学部社会学科の実践的授業
2021年7月29日(木) 文学部新着情報■「フィールドワーク研究」のこれまでの取り組み
「フィールドワーク研究」(2年次配当)は、甲南大学文学部社会学科の専門科目です。社会調査士資格取得カリキュラムにも含まれています。多様な現場に関わりながら、インタビュー法や観察法など質的調査を学びます。受講生は、各自が調査企画を作成、学外でのフィールドワークを実施し、調査レポートを制作します。
2019年度までは、受講生のフィールドワーク作品(写真1)を教室に展示し読み合うイベントを開催していました。調査を記録し分析するだけでなく、調査協力者や、他の受講生、より多くの人に手にとり読んでもらうための「作品」として仕上げることも、調査の大切なプロセスです。
「フィールドワーク研究」の受講生たちの取り組みは、西川が渡米した際に、イリノイ大学の「図書館情報学」や「都市問題」の授業でも紹介し(写真2)、またロンドンのアート関連書店でも作品を展示(写真3)しました。甲南生の調査レポートは、文章や図表だけでなく、写真やイラストを挿入し、マスキングテープなども用いて読者が触れたくなる作品が多く好評をえました。
■コロナ下のオンライン授業
ところが、コロナ下において、2020年度と2021年度の「フィールドワーク研究」は、Webを活用した授業となりました。現場から学ぶべき調査法を、オンラインのみでどこまで学習できるのか。受講生は、教科書の他に、甲南大学のポータルサイトに掲載される毎週の授業資料を読み、時には教員が語りかける音声を聞き、その週の課題に取り組みます。翌週の授業資料には、受講生からの多様な意見が掲載されます。こうしたいわゆるオンデマンド授業と並行して、2021年度の「フィールドワーク研究」では、毎週、Zoomを利用したオンライン座談会を開き、受講生が自由に議論に参加し調査やレポート作成の悩みや発見を語り合う場を設けました。大学院生も参加し、学年をこえて議論が熱く展開されました。「他者の意見に触発されて自らを語る」という場面が、オンライン授業においても生まれることを学生たちが証明してくれました。
感染症が収束しないなかでのフィールドワークについては、特に2つの問題について受講生のあいだで真剣に考えました。ひとつは、安全と責任です。調査者がウイルスを運ぶ媒体になりうる、あるいは、そうした不安を相手に与えてしまう状況において、感染症対策を徹底したうえで、ZoomやLINEや電話などを利用してどのような調査が可能なのかを考えなければなりません。もうひとつは、家族や友人を対象に暮らしの身近な問題を調査するときに、相手や自分の「プライバシー」保護への配慮がおろそかになりがちだという落とし穴です。
2021年前期授業の最後には、調査レポート91作品が提出されました。そのタイトルで使われた語彙の頻出度を視覚化したのが写真5です。社会学科の中里英樹教授に質的調査データ分析ソフトNVivoを使って作成していただきました。学生たちが実施した調査は、「コロナ禍」による暮らしの「変化」を多く扱っています。例えば、日常の食生活や消費行動、大学の授業やクラブ活動、アルバイトなどがどのように変わったかについてです。また、キーワードは多様ですが、「アイドル」「ファン」「推し」関連の調査レポートが12作品を占めていたことも印象的でした。
他の受講生の作品も読みたい、という学生たちの要望に応じて、91作品の閲覧BOXをオンライン上に作り、受講生に限り期間限定で公開しました。なかには全作品に目を通したという学生もいて、それぞれが受けた刺激や率直な感想が寄せられています。(文学部社会学科教授 西川麦子)