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KONANプレミア・プロジェクト エトガル・ケレット&シーラ・ゲフェン招聘イベント「『おもしろさ』の向こう側:生を照らす物語の力」開催報告
2019年11月01日(金) 文学部新着情報 2019年10月11日より、イスラエルの短編小説作家で映画監督としても活躍するエトガル・ケレットさんとその妻で映画監督、女優、絵本作家のシーラ・ゲフェンさんを甲南大学にお招きし、様々な場でおふたりからお話を伺う機会を設けました。お二人の来日の様子は、NHK京都放送局のニュース番組で取り上げられ、本学でのイベントの様子も紹介されました。(https://www.nhk.or.jp/kyoto-blog/tokusyu/414974.html)
10月12日(土)に甲南大学ネットワークキャンパス東京で予定していたイベントは、台風19号による悪天候のため中止せざるを得ませんでしたが、その後の岡本キャンパスでの講義や文芸イベントは、多くの参加者とともに盛大に開催することができました。
10月16日(水)には、英語英米文学科の「基礎演習Ⅰ、Ⅱ」、10月17日(木)には、「セミナーⅠ、Ⅱ」といった講義でお二人のお話を聞く機会を設けました。
「基礎演習Ⅰ、Ⅱ」では英語英米文学科の1、2年必修科目の「基礎演習Ⅰ、Ⅱ」のすべてのクラスを集めて、合同基礎演習という形、かつ他学部・他学科からの参加も受け入れる全学オープンで開催しました。ケレットさん、ゲフェンさんを壇上に招き、教員の秋元、杉浦、岩井、マーティンが、お二人の創作活動について、秋元が適宜日本語に訳すという形でお聞きしました。参加学生は事前にケレットさんの短編3つを日本語訳か英訳で読むことを課題としており、後半はこれらの作品を中心にふたりに話を聞き、世界的なクリエーターの創作の姿勢を学ぶことができたと思います。最後には学生からの積極的な質問が続きました。
「セミナーⅠ、Ⅱ」では秋元ゼミの学生を中心に、こちらも全学オープンの形で開催し、こちらは「基礎演習」とは違って通訳なしで、秋元がケレットさんに創作や翻訳、世界情勢や現代社会についてなどについて公開インタビューをしました。よりレベルの高いお話に学生たちも耳を傾け、ケレットさんならではの創作の姿勢や世界の捉え方に感銘を受けておりました。
10月19日(土)には、甲友会館で、300人の満員の観衆を集めて、文芸イベント「『おもしろさ』の向こう側:生を照らす物語の力」を開催しました。ケレットさん、ゲフェンさん夫妻がフランスのテレビ局Arteのために作成したドラマシリーズ『ミドルマン』全4話を上映し、そのあとにおふたり(ふたりは同作品の監督)によるコメントをいただきました。名優マチュー・アマルリックが主演し、現実とファンタジーを行き来するような見事な映像作品に、参加者からも絶賛の声が相次ぎました。この作品は、夫妻の厚意により本国での放送に先駆けて上映が可能になったものです。ケレットさんとゲフェンさんに改めて感謝申し上げます。
後半では、ケレットさんと直木賞作家の西加奈子さんの対談が行われました。人を大きな括りでカテゴライズしてしまうことへの違和感を西さんは表明され、それはケレットさんが常々おっしゃっている「アンビ」な姿勢とも共鳴するもので、悪を「悪」とラベリングして思考停止するのではなく、その人の中にも様々な部分があることを考えるべきだということで二人の見解は一致しました。西加奈子さんの人を引き込む見事な話術とケレットさんの作品と人柄への共感、そしてケレットさんのユーモアと機知に満ちた見解で対談は加速度的にスイングしていき、100分という時間があっという間で、終わるのが惜しい、いつまでも聞いていたいと思わせる対談でした。本を読まない人の目を文学に向かせるにはどうしたらよいか?という西さんの問いかけは、文学部の教員や文学研究者が皆考えるべき課題だと思いますが、ケレットさんはこの質問に対して、他のものはまず「楽しい」「おもしろい」から入るのに、文学は「大事」「重要」ということを強調しすぎて偉くなってしまっているのではないか、ということを答えました。もっと誰でも読める身近なものであっていいはずだ、そうすれば「文学」というより「ストーリー」だけが残る、それは人間が古来ずっと楽しんできたものだ、というケレットさんの見解には、「文学」に纏わる特権意識を剥ぎ取るものがありました。敷居を目一杯低くして読者をどんどん呼び込んでいる作家として西さんはケレットさんを讃えていましたが、この姿勢はケレットさんだけでなく西さんにも共通するもので、ふたりはともに「文学」の間口を広げている作家だということがよくわかるお話で、その間口には図らずも対談のタイトルにあった「おもしろさ」があるのだということも確認できたように思います。
ふたりの息の合った見事な対談には、イベント後も「もう一度聞きたい」「活字で読みたい」といった声が多数寄せられました。主催者としても活字化の方法を探ってみたいと思います。
イベント終了後にはケレットさんにサインを求める人の列が甲友会館の外まで続き、ケレットさんは一人一人にとても丁寧に声をかけ、イラスト入りの素敵なサインをしてくれました。
終了後に寄せられた感想には「大学らしいイベントだった」「考える種をもらった」「このようなイベントをもっとやってほしい」という声が多数寄せられました。参加した皆さんに満足していただけるイベントとなり、主催者としても大変嬉しく思っております。ひとえに、作品の上映を許可し、ご登壇くださった、エトガル・ケレットさん、シーラ・ゲフェンさん、西加奈子さんのおかげであります。感謝申しあげます。そして、『ミドルマン』と、3人のクリエーターに興味を持って参加してくださったみなさまのおかげで、この場に熱が生まれたのだと思います。ご参加くださった皆様、ありがとうございました。
甲南大学が、このようなイベントをこれからも開催できる大学であるよう、願ってやみません。
(文責:文学部英語英米文学科 秋元孝文)