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甲南大生が「ホロコースト」を考える―「横断演習」で甲南大学×元町映画館コラボ上映会を実施―
2019年2月19日(火) 文学部新着情報
「横断演習」は、文学部の5つの学科(日本語日本文学科・英語英米文学科・社会学科・人間科学科・歴史文化学科)の学生が、学科の垣根をこえて学ぶ授業です。2018年度は「ホロコーストを考える」をテーマに、クロード・ランズマン監督の長編記録映画『ショア』を鑑賞しながら、ナチス・ドイツによるユダヤ人の大量虐殺=「ホロコースト」の問題を様々な角度から考えました。
世界中で排外主義やナショナリズムの嵐が吹き荒れている今日、ホロコーストの歴史から学ぶ必要は高まっています。600万人にも上る犠牲者を出したこの未曾有の惨劇はいったいなぜ、いかにして生じたのでしょうか。アウシュヴィッツ強制収容所の名前はよく知られていますが、ユダヤ人がなぜそこに送られ、どんな方法で殺害されたのかといったことは意外と知られていません。
そこでこの授業では、まず最初にホロコーストの概要について担当教員(田野大輔)によるレクチャーを行い、ナチスのユダヤ人政策が様々な紆余曲折を経て最終的に絶滅収容所での組織的殺害にいたった過程を学びました。その上で、ホロコーストの全体像を多角的に検証した長編記録映画『ショア』を鑑賞し、ホロコーストの問題をさらに深く考えていきました。ただ、この映画は記録映像も再現映像も使わず、関係者の証言と現在の映像のみでホロコーストの実態に迫ろうとした異色の作品で、相当な予備知識があっても内容を理解することが難しく、上映時間も9時間30分と非常に長いため、全編を通して見るだけでもかなり大変だったようです。
『ショア』を鑑賞した後、6つの班に分かれてグループワークを行い、班ごとにテーマを決めて学習を進めていきました。各班のテーマは、アウシュヴィッツ強制収容所の概要(4班)、収容所内の生活(3班)、殺戮施設(ガス室)の構造(6班)、特務班(ゾンダーコマンド)の仕事(1班)、人体実験の実態(2班)、アウシュヴィッツを描いた映画(5班)です。これら6つのテーマについて各班で手分けして文献や資料を調べ、その成果をパワーポイントにまとめました。そして、元町映画館の協力を得てホロコースト映画の上映会を実施し、上映後に各班の研究成果を発表することにしました。上映する映画は、アウシュヴィッツ強制収容所の苛酷な実態を描いたネメシュ・ラースロー監督の映画『サウルの息子』です。
上映会の準備に先立って、12月7日(金)の授業に元町映画館の支配人・林未来さんと広報担当・宮本裕也さん(文学部人間科学科卒業生)をお招きし、ミニシアターの仕事や宣伝・広報の方法などについて説明していただきました。レクチャー後、上映会の広報活動(新聞取材対応やラジオ出演)への参加者を募ったところ、4名の学生が手を挙げてくれました。
年が明けて1月に入り、上映会の広報活動が本格化します。1月4日(金)には「FM aiai」の収録、1月11日(金)には「神戸新聞」の取材対応、1月17日(木)には「元町映画館 CINEMA HIROMA」と「FM moov」の収録を行い、『サウルの息子』の見どころや上映会に向けての抱負などを話しました。4名の学生にとっては初めての経験でしたが、慣れないながらもうまく話ができたようです。
1月26日(土)、いよいよ上映会の本番です。朝一番に全員集合してリハーサルを行った後、一般客の入場がはじまると、まもなく劇場は満席となり、立ち見が出るほどの盛況となりました。『サウルの息子』の上映が2時間ほどで終了した後、担当教員(田野大輔)による映画の解説をはさんで、引き続き6つの班の成果発表がはじまりました。班ごとに学生数名が壇上に上がり、スクリーンに映したパワーポイントを使って説明を行った後、担当教員が解説を加えるという形で発表会は進行しました。準備不足だったり声が小さかったりした班もありましたが、研究成果を人に伝える工夫や努力が感じられる班もあって、全体としてはまずまずの出来だったと思います。発表の未熟さに課題は残ったものの、学生のみなさんには反省も含めて得るものがあったのではないでしょうか。
「ホロコースト」という難しいテーマ、しかも『ショア』や『サウルの息子』といった取っ付きにくい映画を取り上げたこともあって、学生のみなさんにはかなりハードルの高い授業だったと思います。この授業を通じて歴史を学ぶことの面白さや映画を解読する楽しさに気付いてくれた人がいたとすれば、それにまさる喜びはありません。
(文学部社会学科 教授 田野大輔)