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    足利事件の弁護を担当した佐藤博史先生のお話を伺ってきました!(東京研修⑤)

    2017年9月29日(金) 法学部新着情報
     2017年9月12日から14日の3日間、えん罪救済ボランティアの学生30人と東京に研修に行きました。訪問先などについて、参加した学生が執筆した記事の第五弾です。(法学部教授 笹倉香奈)
     
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     皆さんは冤罪とは何かご存知ですか?刑事事件において、やってもいない罪で犯人とされ裁判で有罪判決が確定した場合などをいいます。 一度、有罪判決が出てしまうと、何年もの間外に出ることが出来なくなります。仕事をする、好きなものを食べる、遊ぶ、大切な人に会うなどの自由が奪われてしまうのです。過ぎてしまった時間は2度と戻ってこず、今も無実の人が苦しんでいるかもしれません。
     私たちは、このような冤罪事件がどうして発生するのか、そして、どうしたらなくすことが出来るのかを勉強し、考えるために東京研修を行いました。9月14日木曜日には、足利事件で菅家利和さんの弁護を担当した佐藤博史先生にお話を伺いました。
    足利事件は、1990年5月12日に栃木県足利市のパチンコ店で行方不明となった当時4歳の女児が、翌日、パチンコ店近くの渡良瀬川の河川敷で発見されたという事件です。犯人の物と推定される体液が付いた女児の下着も付近の川の中で見つかり、わいせつ目的の誘拐・殺人事件とされました。1991年6月23日、警察は尾行中に菅家さんが捨てたゴミ袋から体液の付いたティッシュペーパーを発見し、警察庁科学警察研究所にDNA鑑定を依頼しました。科警研は、同年11月25日、菅家さんと犯人のDNAの型が一致したとする鑑定書をまとめました。これを受けて警察は、12月1日、菅家さんを任意同行し、深夜に及ぶ尋問の末に犯行を認める「自白」を引き出し、21日に、わいせつ目的誘拐と殺人、死体遺棄の容疑で逮捕しました。菅家さんは、長時間の不当な取調べにより、一度虚偽の自白をしたものの、一審の途中から否認し、家族に当てた12通の手紙でも一貫して無罪を主張していました。しかし、警察官、検察官、弁護人、裁判官の中でそのことを信じた人は誰もいませんでした。こうして、第一審では無期懲役という判決が下されました。
     同じ時期に、佐藤先生は当時確立されていなかったDNA鑑定方法に疑問を抱き、『法律時報』に論文を書いたことから控訴審から足利事件を担当することになり、無罪を主張して、再鑑定を裁判所に申請し続けました。しかし、東京高裁は控訴を棄却し、2000年7月17日の最高裁の判決で有罪が確定しました。
     その後、2002年12月25日、菅谷さんは宇都宮地裁に再審を請求しました。最初地裁は請求を棄却しましたが、マスコミからの批判が集中したこともあり、東京高裁で最先端のDNA型鑑定による再鑑定が認められました。その結果、女児の下着に付着していた体液と、菅家さんのDNAは一致しないと分かりました。再鑑定の結果を受け、東京高検は菅家さんを刑務所から釈放し、2009年6月23日、東京高裁は再審開始を決定しました。そして、2010年3月26日に無罪判決が言い渡されました。
     菅家さんは、1991年に逮捕されてから、東京高裁が 2009年に再審開始の決定を下すまでの18年もの間、刑務所で過ごしていました。このような冤罪事件が起こる背景には、大きく2つの問題点があります。
     1つ目は、取調べの方法です。警察や検察側が犯人という確信を持って取調べに臨んでしまっていることです。そして、事件を解決するため、一刻も早く起訴したいことから、まず「自白」をさせるということです。今回の事件でも、DNA鑑定は絶対正しいというメディアの嘘の情報に惑わされ、菅谷さんは犯人だと決めつけて取調べされていたそうです。
    2つ目は、制度の問題です。起訴前に最大で23日間の身体拘束をすることが可能なことが日本の刑訴法で定められています。また、長時間の取調べを禁止する法律はありません。2016年の刑訴法の改正により、取調べの録音と録画が一部認められるようになりましたが、全ての事件で認められたわけではありません。
     「この人はもしかしたら犯人ではないかもしれない」と思いながら、取調べをすることや、否認する言葉に耳を傾けること。そして、法律を改正して、全面的に取調べを録画することや、身体拘束の期間を減らすことが、冤罪事件の防止につながるということが分かりました。
    今回の講演で一番印象に残っている佐藤先生の言葉は、「虚偽自白を立証するには、一般常識や科学の知識など、様々な角度から物事を見なければならず、専門的な知識が必要な場合はその道のプロになるぐらい勉強しなければならない。」ということです。どんな知識でも、無駄になることはないと分かったので、法学部だからといって、法律の勉強だけを勉強するのではなく、法律以外のことにも興味を持って様々な経験をして、知識を蓄えていきたいです。2時間という短い時間でしたが、事件に関わらなければ知ることができないことに関してもお話ししてくださり、とても充実した時間を過ごすことができました。(法学部三回生・宮嶋春菜)